プロジェクトのきっかけ

安心できるお産と情報を

日本のお産の現場が今、さまざまな問題で揺れています。

お産に関わる人たちの過酷な労働実態、産婦人科医不足や分娩施設の減少…お産の現場は今、ゆとりを失いつつあります。世界一の安全性を誇る日本の出産環境は、周産期医療スタッフの方々のギリギリの踏ん張りと想いで、かろうじて成立しているのかもしれません。

またこうした出産を取りまく現状は、妊婦さん側から見ると「分娩施設が近くにない」「妊婦健診が混み合い、先生とコミュニケーションしづらい」といった問題となってあらわれています。

時代や社会の変化に伴い、出産事情も変化します。

しかし、これまでも、これからも、 「無事に正期産を迎え、元気な赤ちゃんを産みたい、産んでもらいたい」 というのは、妊婦さんと産院、どちらにも共通する願いではないでしょうか。

「初めて親になった」私たち

私たちアジアンバリューは、書籍・雑誌の企画立案や編集、WEBサイトの構築・運用を手がける会社です。社名が表す通り、アジア各国にアクセスし、情報をとりまとめることを得意としています。正直に申し上げるとこれまで、周産期医療や医療全般との接点は、ほとんどありませんでした。

そんな私たちが、なぜ出産現場の方々や妊婦さんの役に立ちたいと考えたのか。きっかけは非常に個人的なことです。私たちのスタッフには、ここ数年で「初めて親となる」体験をした者が多かったのです。

そのとき私たちは、妊娠・出産という体験のかけがえのなさを実感するとともに、それまで、「自分にはあまり縁のない社会問題」としか認識していなかった、お産を取り巻く状況(分娩施設の減少、産婦人科医のハードな働き具合など)を目の当たりにすることになりました。

スタッフのひとりは、分娩施設の減少で、里帰り出産をあきらめました。また、あるスタッフの奥さんは、妊婦健診の混み具合に驚き、
「本当は先生にいろいろ質問したかったけど、時間がかかると迷惑だろうと思って、何もいえなかった」
と当時を振り返ります。

きっかけは、一冊の本

社会問題といわれるものは、多くの人が「どうにかしたい」と思っていても、実際の改善のためにアクションを取る人は、少数派です。とりわけ妊娠・出産は、その時期が過ぎてしまうと、問題意識も薄れる傾向にあります。たとえ意識を持ち続けていても、妊娠中や子育てに追われる日々に突入すると行動には移しづらいし、どのように行動していいかもわからない。私たちもそうでした。

しかし2006年、出産を経験したスタッフ関係者が「安心マタニティブック」という書籍を企画、製作したことがきっかけになって、「お産を取り巻く問題に対して何かできることはないか」という私たちの気持ちは、形となって動き出しました。

「妊娠期間を大事に過ごしてほしい」というコンセプトのその本は、出産予定日までの毎日、情報を伝えるカレンダー形式で編集され、現在も日本中の妊婦さんに広く支持されています。この本が支持されたことで、私たちはひとつのアイデアを得ました。

「こうした情報を本ではなく、通っている産院から受け取ると、妊婦さんはもっとうれしいのではないか。そしてそれは、産院側にとっても”いい”と思えるものではないか」

もっとも身近で手軽なツールである「携帯メール」「アプリ」を利用し、おなかの赤ちゃんの成長、妊婦さんの不安な気持ちを和らげ励ますようなメッセージ、健康管理に役立つアドバイスを日々、産院が提供する。妊婦検診だけでは伝えきれない、医師や助産師のとしての想いを伝える。

また、赤ちゃんは無事に産まれて当然という「安全神話」のさなかにある妊婦さんにも、不安を煽ることなく少しずつ「お産のリスク」について説明し、「普通に生まれる」ことそのものがかけがえのない体験であることをメッセージとして届ける。

これによって「安全」「安心」「信頼」が生み出され、よいお産につながるのだとしたら、それは誰にとってもいいことなのではないか。さらに、産院と妊婦さんとの信頼関係を強化すること、妊婦さんの健康管理意識が高まることは、周産期医療で働く方々の負担をわずかながらでも軽減することにつながるのではないか──。

私たちは、「社会起業」(ソーシャル・ベンチャー)のプロジェクトとして位置づけ、「めるママ」「ママ一年生」というプロジェクト名をつけました。

「安心と信頼」が力になる

つねに命の重さと向きあい、日々献身的なご努力で周産期医療を支えている全国の産婦人科医、助産師、スタッフの方々に、私たちは心から敬意を表します。感謝の気持ちを抱いています。新しい命を宿し、育てていく妊婦さんとその家族の未来が、明るいことを、私たちは願っています。

現在の周産期医療が抱える問題に、私たちのような小さな会社ができることは、限られているかもしれません。しかし私たちは、「安心と信頼」の上に成り立つお産と、その後の子育てに、「アプリ」や「メールマガジン」が力になると信じています。私たちの想いをのせた小さなITシステムが、「お産」という社会の根底を支える大きな営みにほんの少しでも役立つことができたら、これほどうれしいことはありません。

社会起業プロジェクト「めるママ」 スタッフ一同

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